夢の中の店

夢の中でしか行けない店がある。

店というか、そこそこの規模のショッピングモールのようなところで、真新しいレンガと石畳の街並みに計画性を感じる。自由が丘のラ・ヴィータや川崎のチネチッタ、箱根の星の王子様ミュージアムあたりが似たような雰囲気だが、いつ行っても新規オープンのごとく経年劣化が感じられない。

夢の中で私が向かうのはいつもハンドメイドと思われる雑貨が中心のエリアだ。飲食店等他にもエリアはあるようだが、スルーしてしまうので他にどんな店があるのかは把握していない。

雑貨屋はどこも私好みので、でも買うには少し惜しいデザインの商品たちが所狭しと並べられている。レースのストールとか、いぶし銀と薔薇モチーフのアクセサリーとか。ここがこうならな、色が違えばな、と一つ一つ手に取って吟味するので全ての店を見るのにとても時間が掛かる。幸せだけどちょっぴり残念な時間の掛け方だなと思う。

最後に入る店はエリアの最奥にある古書店で、古い紙の独特の匂いが心地良い。モールの外観や他の店舗は真新しいのに、この店だけは古くからそこにあるように見えるのは商品のせいだろうか。本の他にも鉱石やパワーストーンも置かれている。店の客は常連ばかりのようで、黒髪を夜会巻きに結い上げた着物の女性をよくみかける。一度だけそこで本を買ったことがあるのだが、残念ながら何を買ったのかは覚えていない。

何せ夢だから自分の意思でそのモールに行くことは出来ない。だいたい数年に一度、忘れた頃に訪れることが出来るのでちょっとしたご褒美みたいなものだと思っている。こうやって書き留めることでそのモールへの扉が閉ざされてしまったらどうしようと少しドキドキしているのだが、いつも忘れてしまうのが勿体無くて思い切って文章に残して見ることにした。
ヤマもオチも無いけど、自分にとって意味だけはあるよということで。